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岡山地方裁判所 昭和37年(モ)298号 判決 1964年7月07日

申請人 松永貞芳

被申請人 有限会社友浦鉄工所

主文

右当事者間の岡山地方裁判所昭和三七年(ヨ)第一四号地位保全仮処分申請事件について同裁判所が昭和三七年二月七日なした仮処分決定はこれを認可する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一、申立

一、申請人の申立

主文同旨の判決を求める。

二、被申請人の申立

「岡山地方裁判所昭和三七年(ヨ)第一四号地位保全仮処分申請事件について同裁判所が昭和三七年二月七日なした仮処分決定はこれを取消す。

申請人の申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。」

との判決を求める。

第二、主張

一、申請人の申請の理由

(一)  申請人と被申請人との関係

被申請人は申請外三井造船株式会社玉野造船所のいわゆる下請会社であつて、鉄工業等をその目的とし、一二名の従業員を使用している。

申請人は昭和三一年二月頃から被申請会社に旋盤工として雇われ、その賃金によつて生活を営んでいた労働者である。

(二)  第一組合の結成

被申請会社においては零細企業の常としてその労働条件が低劣であるため、かねて従業員間に労働組合を結成してその経済的地位の向上を期する気運が強かつたところ、昭和三六年九月一日頃玉野市所在の前記三井造船下請中小企業のうち鉄工部門の八事業場所属の労働者を主体とする玉野地区一般合同労働組合が結成されたが、被申請会社においては同月九日申請人の主導により一二名の従業員中職長小田輝昭を除く一一名をもつて玉野地区一般合同労組友浦支部の名称のもとに労働組合が結成され(以下これを第一組合と称する)、申請人がその執行委員長に就任して同日被申請会社にその旨通告し、直ちに労働条件の改善について交渉を開始するとともに、各組合員は玉野地区一般合同労組に個人加入した。

(三)  第一組合の切り崩しと第二組合の結成

ところが右労働組合結成に驚愕した被申請会社代表取締役友浦三敏は翌一〇日夜その妻長女および息子勲に命じて第一組合員である水井幸外数名の自宅を訪問させて第一組合からの脱退方を勧告させた。一方第一組合に唯一人加入しなかつた前記職長小田は同月一一日頃親会社三井造船労働組合の執行委員長浜口某らと第一組合を分裂させることを相謀り、第一組合員の自宅を訪問して脱退方を呼びかけ、組合員一一名中八名から脱退届を徴して翌一二日第一組合の執行委員長である申請人にこれを提出するとともに、同日右脱退組合員八名に小田を加えた九名をもつて友浦鉄工所労働組合を結成し(以下これを第二組合と称する)、前記水井がその執行委員長に、小田が副委員長にそれぞれ就任した。その後申請人とともに第一組合に留つた他の二名も第二組合に移り、結局第一組合には申請人のみが残留することとなつたが、その間申請人に対しては第二組合への加入の勧誘はなされなかつた。

(四)  被申請会社・第二組合間の労働協約の締結とこれにもとずく申請人の解雇

第二組合は同年一一月六日被申請会社との間に労働協約を締結したが、その第三条において

「会社は左の各号の一に該当する従業員を原則として解雇する。

但し会社が解雇することが不適当と認めたときは組合と協議する。

一、組合から脱退又は組合から除名された者

二、試傭期間を終つた従業員でその期間の終了の日から二〇日以内に組合に加入しない者」

とするいわゆるユニオンシヨツプ協定を結んだ。

そして被申請会社は同月二六日付内容証明郵便をもつて申請人に対し、申請人は右協約第三条に該当するから、同年一二月二七日をもつて解雇する旨の意思表示をし、右内容証明郵便は同月二日申請人に送達された。

(五)  第二組合による申請人の加入申込拒否

そこで申請人は第二組合に対して加入を申込んだところ、同組合は被申請会社が申請人を嫌つているからとの理由でこれを拒否し、また被申請会社に対して解雇予告の意思表示を撤回するよう申入れたところ、被申請会社は従来何ら問題にするところがなかつた申請人が共産党員であるからとの理由でこれを拒絶した。

(六)  本件解雇の無効事由

(1) 申請人は解雇理由とされたシヨツプ条項の対象にならない。

被申請会社が申請人に対する解雇予告の理由とした第二組合との労働協約第三条のいわゆるシヨツプ条項には前記のとおり、組合から脱退あるいは除名された者および新規雇傭者の解雇について規定されているのみで、申請人のように組合結成前から従業員であつた者については何ら規定されていないから、申請人は右シヨツプ協定の予定する解雇されるべき者には該当せず、したがつて本件解雇はその理由とされた根拠を欠いている。

(2) シヨツプ条項は申請人に適用されない。

そもそもいわゆるシヨツプ条項なるものは非組合員であつてもシヨツプ条項成立当時すでに雇傭されていた従業員に対しては適用されないものと解すべきである。なぜならそのように解さないと我国のいわゆる企業別組合とよばれる一企業内の従業員からのみ労働組合が組織される方式がとられ、しかも企業間の労働者の移動が容易に行われにくい終身雇傭制がとられている実状下においては、シヨツプ条項が労働者の個人の自由を不当に侵害する結果になるからである。

かりに右のように解しえないとしても、シヨツプ条項が、当該労働組合には属していなくても、他の労働組合の組合員である者に対しては適用されないことは明らかであるところ、申請人は前記(二)において主張したとおり昭和三六年九月九日から現在までひきつづき第一組合の組合員であり、かつ玉野地区一般合同労組の組合員でもあるから、被申請会社と第二組合との間に締結された前記シヨツプ条項は申請人に適用されるべきではない。

(3) シヨツプ条項の締結は申請人に対する不当労働行為である。

被申請会社は前記(三)において述べたとおり第一組合を切り崩したうえ第二組合の結成に関与介入して御用組合をつくり、この御用組合とシヨツプ条項を締結したものであるが、その目的が在職中の、しかも被申請会社にとつて好ましくない第一組合の組合員である申請人をその政治的信条(共産主義)の故に解雇し被申請会社から排除することにあつたことはその間に締結された労働協約の綱領第一項に

「我々は赤色労働組合主義を絶対に排撃し………以て労働生活諸条件向上と共同福利の増進を期す。」

とうたわれているところからも明らかであつて、右シヨツプ条項はその本来の目的を逸脱して、申請人をその思想信条を理由として差別する不当労働行為を目的として締結されたものであるから、少くとも申請人に対する関係では無効である。

(4) 本件解雇は全体として申請人に対する不当労働行為である。

以上に述べた被申請会社の第一組合に対する切り崩し工作、第二組合結成に対する関与介入(被申請会社代表者の妻および息子の行為はもちろん、職長である小田の行為も職制の支配介入として当然不当労働行為の推定をうける)、労働協約締結の目的、第二組合による申請人の加入申込拒否等解雇にいたる全体の事情からすれば本件解雇が申請人に対しその思想信条を理由として差別待遇した不当労働行為であることは明らかである。

右の次第で本件解雇予告の意思表示は無効である。

(七)  申請人の収入

申請人は本件解雇をうけた当時一日金五五〇円相当の賃金を得て毎月少くとも二五日間労働し、かつ毎月きまつて少くとも金二、七五〇円相当の残業をしていたから、一ケ月少くとも金一万六、五〇〇円の収入があり、この賃金は毎月二〇日に支給されていた。

(八)  保全の必要性

申請人は目下被申請会社を被告として本件解雇の無効確認訴訟を提起すべく準備中であるが、本案判決の確定までこれを放置するときは被申請会社から得る賃金を唯一の生活の資とする申請人は妻および子ども二人の家族とともに路頭に迷い著しい損害をこうむるおそれがある。

よつて本申請におよぶ次第である。

二、申請の理由に対する被申請人の答弁および主張

(一)  申請の理由(一)の事実は認める。但し申請人を雇入れたのは昭和三四年三月一日である。

(二)  同(一)の事実中申請人主張の日に申請人の主導により玉野地区一般合同労組友浦支部なる労働組合(第一組合)が結成され、申請人がその執行委員長に就任して被申請会社に組合結成の届出をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同(三)の事実中申請人主張の日に第一組合から組合員八名が脱退し、友浦鉄工所労働組合(第二組合)が結成され、水井幸がその執行委員長に、小田輝昭が副委員長に就任したこと、その後第一組合の残留者が申請人のみとなつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同(四)の事実はすべて認める。

(五)  同(五)の事実中申請人が第二組合に加入の申込みをしたこと、第二組合がこの申込みを拒絶したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六)  同(六)の主張はすべて争う。

(七)  同(七)の事実は認める。

申請人に対する本件解雇の意思表示は第二組合との間に締結されたいわゆるユニオンシヨツプ条項にもとずいてなされたものであつて、その余の意図は全くない。右解雇が有効である理由は次のとおりである。

(一)  シヨツプ条項の適用範囲

一般に労働協約におけるシヨツプ条項については、同一企業内に労働組合が併存する場合にその一の組合との間に締結されたシヨツプ条項が他の組合の組合員である従業員に適用されるかどうかについては疑の存するところであるが、これに反し、いかなる組合にも加入していない未組織労働者に対しては条項締結後に雇傭された者についてはもちろんのこと、従前から雇傭されていた者についてもその適用をうけて、特段の事情のない限り解雇されるべきこと学説判例のひとしく認めるところである。

(二)  申請人に対するシヨツプ条項の適用――申請人はいかなる組合にも加入していない。

(1) 第一組合は申請人も自認するとおり昭和三六年九月一二日組合員一一名中九名が脱退し、その後残る三名中申請人を除く他の二名も第二組合に移つて申請人のみが残留することになつたのであるが、組合員一名のみの労働組合なるものが存在する理はないから、第一組合は組合員が申請人のみになつたことにより組合としての実体を失つて消滅したものというべく、したがつて本件解雇の意思表示当時申請人は第一組合の組合員であつたということはできない。

(2) 申請人はその主張のように玉野地区一般合同労組の組合員であつたとしても、右組合は本件解雇の意思表示当時すでに消滅していた。

すなわち玉野地区一般合同労組なる組合の実体は詳かでないが、昭和三六年九月五日被申請会社と同様三井造船玉野造船所の下請企業である玉野市所在の玉野電機株式会社(以下玉電という)において労働争議が発生した際突如として右会社に玉野地区一般合同労組玉電支部という名称の労働組合が組織され、これに呼応してその頃被申請会社その他二、三の三井造船下請企業内に同種名称をもつた組合が結成された。しかし右玉電支部は同月二二日合同労組から脱退してその名称を変更し、被申請会社その他の支部もその頃すべて消滅したので、合同労組なる組合はその実体を失つて消滅し現在にいたつている。したがつて本件解雇の意思表示当時申請人が一般合同労組の組合員であつたということもできない。

(三)  第二組合の加入申込拒否理由

労働組合は自主的団体であるから、加入を申込んだ労働者において当該組合の団結を紊すおそれがあり、また団結に有害な言動をなす場合にその加入を拒むことは組合の自主性に鑑みて当然是認されるものというべきところ、申請人は共産党員であるところから総同盟に所属する第二組合の組合員とはその主張・方針等において全く異つていたのみならず、第一組合結成に際し他の従業員に詐言を用いて加入を強要し、脱退した組合員を面罵する等の言動があつたところから、第二組合としては申請人を加入させるときはとうてい組合の統制を維持しえなくなるものと認めてその総意により申請人の加入申込を拒否したのであつて、その拒否には正当な理由がある。かかる正当な理由をもつて加入を拒否された申請人がシヨツプ条項の適用をうけて解雇されてもけだしやむをえないところである。

(四)  本件解雇の有効性

これを要するに被申請会社は第二組合との間に締結されたユニオンシヨツプ条項にもとずく第二組合に対する義務の履行として申請人を解雇したにすぎず、その解雇には何ら違法事由はない。

三、被申請人の主張に対する申請人の答弁および反対主張

(一)  被申請人の主張(一)のうちシヨツプ条項締結後に雇傭された未組織労働者に対して該条項が適用されるべきことは争わないが、その余の主張は争う。

(二)  同(二)の事実中第一組合の組合員が申請人のみになつたことおよび玉電支部が脱退したことは認めるが、玉野地区一般合同労組が消滅したことは否認する。

玉野地区一般合同労組はその名称が示すように企業の枠をこえた地域性を構成原理とする横断的組合であつて、個々の労働者を組合員として組織されたものであるが、そのうち組合員数の多い特定の企業においては各企業別に支部を結成した。もつとも支部の中には友浦支部(第一組合)のようにそれ自体労働組合としての実体を有するものと、合同労組運営の便宜上つくられた労働組合としての実体を有しないものとがあつたが、いずれにしても支部組合員とて合同労組の組合員であることにかわりはなく、結局合同労組は個々の組合員(その中には支部に属する者と属さない者とがある)と単位組合としての支部をもつて構成される、いわゆる混合型の労働組合であるということができる。

そして本件解雇当時右合同労組は、同月二二日諸般の事情から合同労組を脱退して玉野電機労働組合と改称した玉電支部組合員が解雇されたいわゆる玉電事件の支援を中心として活動し、現在にいたるまで労働組合として存在しかつ活動を続けている。

(三)  同(三)の事実は否認する。

(四)  同(四)の主張は争う。

第三、疎明関係<省略>

理由

一、申請人と被申請人との関係

被申請人が鉄工業等を目的とする会社で、三井造船株式会社玉野造船所のいわゆる下請会社であり、申請人が遅くとも昭和三四年三月一日から被申請会社の旋盤工として雇われ、その賃金によつて生活を営んでいた労働者であることは当事者間に争がない。

二、被申請会社における第一組合の結成

昭和三六年九月九日被申請会社において申請人の主導により従業員一二名中職長小田輝昭を除く一一名をもつて玉野地区一般合同労組友浦支部(第一組合)という名称の労働組合が結成され、同日申請人がその執行委員長に就任したことは当事者間に争がない。

三、玉野地区一般合同労組と同友浦支部(第一組合)との関係

証人赤松文雄、同金川巌の各証言および申請人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、

(1)  昭和三六年九月五日頃被申請会社と同様三井造船玉野造船所の下請会社である玉野電機株式会社において労働争議が発生し、これを支援するために、その頃玉野市所在の三井造船玉野造船所の下請会社のうち鉄工部門を扱う右玉電および光森鉄工所、精電社、大西鉄工所等数会社所属の従業員をもつて玉野地区一般合同労働組合という名称の地域的産業別労働組合が組成され、赤松文雄がその執行委員長に就任したこと

(2)  被申請会社の第一組合はこれに呼応して右赤松委員長の支援のもとに結成されたものであつて、第一組合結成と同時にその組合員は全員個人として右合同労組に加入したこと

(3)  右第一組合は合同労組支部という名称を付せられたが、それ自体独立した労働組合としての実体を有し、その組合員は同時に合同労組の組合員であつて、合同労組は単一組合たるその支部に属する者と、支部には属さないで単に合同労組に属するのみの者とによつて構成されていたこと

がそれぞれ一応認められ、これに反する証拠はない。

四、第一組合の崩壊と第二組合の結成

昭和三六年九月一二日第一組合の組合員一一名中申請人外二名を除く八名が第一組合を脱退し、同日被申請会社に右の八名に前記小田輝昭を加えた九名の従業員をもつて友浦鉄工所労働組合(第二組合)が結成され、水井幸がその執行委員長に、小田輝昭が副委員長にそれぞれ就任したこと、その後申請人とともに第一組合に残留した他の二名も第一組合を脱退して第二組合に移つたことは当事者間に争がなく、しかして証人水井幸、同小田輝昭の証言に弁論の全趣旨を綜合すれば小田輝昭は第一組合に加入しなかつたが、第一組合結成後行われた被申請会社との話合の席上申請人に同意した合同労組の赤松委員長が病身の被申請会社代表者に暴言をはき、かつ合同労組支部を結成した前記玉電においては組合結成後親会社である三井造船玉野造船所からの下請発注が停止されたことを聞知していたところから、合同労組ないし第一組合の方針に疑惑を感じ、かつ被申請会社においても下請発注を停止されることをおそれて、同月一〇日総同盟に属する同造船所労働組合の書記長浜口栄に第一組合に対しいかに対処すべきかを相談したところ、浜口から総評系の合同労組に属する第一組合の組合員を脱退させて新たに総同盟系の組合をつくるよう指示されたのでこれに従い、同日夕刻から翌一一日にかけて申請人を除く他の組合員に対して第一組合から脱退するよう呼びかけ、そのうち渡辺兼夫、松本豊三を除く他の八名の同意をえて、これらから脱退届書を徴し、翌一二日右八名を代理してこれを申請人に一括提出して第一組合および合同労組から脱退する旨通告したうえ、同日自ら卒先して第二組合を結成し、前記渡辺、松本も同年一一月一四、五日頃小田の勧誘に応じて第一組合および、合同労組を脱退し、その頃第二組合に加入するにいたつたものであるが、申請人に対しては終始第二組合からの加入方勧誘はなされなかつたことが一応認められ、これをくつがえすに足りる資料はない。

右争のない事実および疎明された事実からすれば、第一組合は昭和三六年一一月一四、五日頃組合員が申請人一名のみとなつたことにより労働組合としての実体を失つて消滅し、したがつて申請人の第一組合員たる地位も消滅したものというべきである。

五、被申請会社・第二組合間の労働協約の締結とこれにもとずく申請人の解雇

第二組合が昭和三六年一一月六日被申請会社との間に労働協約を締結し、その第三条において、

「会社は左の各号の一に該当する従業員を原則として解雇する。

但し会社が解雇することが不適当と認めたときは組合と協議する。

一、組合から脱退又は組合から除名された者

二、試傭期間を終つた従業員でその期間の終了の日から二〇日以内に組合に加入しない者」

とするいわゆるユニオンシヨツプ協定を結んだこと、被申請会社が同月二六日付内容証明郵便をもつて申請人に対し、申請人は右協定第三条に該当するから同年一二月二七日をもつて解雇する旨の意思表示をし、右郵便が同月二日申請人に送達されたことはいずれも当事者間に争がない。

六、シヨツプ条項の趣旨

申請人は前項のシヨツプ条項は申請人のように該条項成立前から雇傭されていた従業員はその対象として規定していないと主張するので考えるのに、前段説示の協約第三条には、たしかに、組合から脱退しまたは除名された者および試傭期間を終了して二〇日以内に組合に加入しない新規採用者について原則として解雇されるものと規定されているのみで、右協約条項成立前から雇傭されていて、しかも組合員でない者については直接には何ら規定されていないから、この条項成立前から雇傭されていたことにつき当事者間に争のない申請人に対しては右条項をそのまゝ適用できないことは申請人の主張するとおりであるが、しかしながら成立に争のない疎乙第四号証(労働協約書、疎甲第四号証と同一)によれば、右協約第二条には

「会社の従業員は左の各号の一に該当する者の外すべて組合員でなければならない。

一、試傭期間中の者

二、その他会社と組合が協議決定した者」

と規定されているところであつて、この規定を同第三条の規定と併せ考えるときは、第三条一号に、「組合から脱退または除名された者」とあるのは要するに組合員でない従業員を例示したものにすぎないというべく、被申請会社は右協約第二条および第三条によつて、第二条一、二号に該当する者を除いて第二組合に加入しない従業員を原則として解雇しなければならない協約上の義務を第二組合に対して負担したものと解するのが相当であるから、右のシヨツプ条項は申請人のようにその成立前から雇傭されていた従業員をもその対象として規定されているものというべきである。

七、シヨツプ条項の申請人に対する効力

申請人はさらに右のシヨツプ協定は申請人に対してその効力を有さないと主張するので検討を加えることとする。

(一)  いわゆるユニオンシヨツプ協定の効力が協定当事者組合から脱退しあるいは除名された者および協定成立後に雇傭された未組織労働者におよぶことは解釈上さしたる異論はない。

(二)  ところが協定成立前から既に雇傭されていた未組織労働者に対してもその効力がおよぶか否かについては問題の存するところであるが、この場合未組織労働者は協定当事者組合には加入せずに自ら労働組合を結成し、あるいは他の労働組合に加入することもできるのであつて、これはまさに憲法二八条の保障する積極的団結権の行使であるから、かかる未組織労働者に対してシヨツプ協定の効力をおよぼすことはこの団結権を制限するものとして許されないものと解すべきかの如くであるが、しかしながら、団結権のより一層の強化を目的とするシヨツプ協定本来の機能に徴するときは、協定当事者組合へ加入する機会を与えつつ、かかる未組織労働者に協定の効力をおよぼして組織強制を行うことは右の機能強化に益するものとして当然許されるものと解するのが相当である。(したがつて協定当事者組合がかかる未組織労働者の加入を正当な理由なくして拒否したときはその効力はおよばないものと解すべきである。)

(三)  これに対して協定当事者組合には加入していないが、他の労働組合に属している従業員に対してはシヨツプ協定の効力はおよばないものといわなければならない。なぜなら、労働組合法七条但書においてシヨツプ条項の有効であることが確認されている所以のものは、団結をもつて他の団結を圧迫する手段として保護されることにあるのではなくして、まさに団結権をより強く保障することにあるというべきところ、一労働者において何人によつても保障されなければならない団結権をすでに行使している以上、他の労働組合がシヨツプ協定を締結したとしてもその効力を右の労働者におよぼすことは、協定当事者組合の団結をもつて他の労働組合の団結を侵害する結果になつてとうてい許されないものといわなければならないからである。この理は協定当事者組合が当該事業場の従業員の過半数をもつて組織されている場合においても何ら異るところはない。

(四)  ところで、申請人は昭和三六年一一月一四、五日頃その属していた第一組合が消滅したことによりその組合員たる地位を失つたこと前記三において一応認めたとおりであるから、同日以降第二組合の締結したシヨツプ条項の適用をうけるにいたつたかの如くであるが、しかしながら、申請人はなお玉野地区一般合同労組に属していたことも同項において一応認めたとおりであるところ、被申請人は右合同労組は本件解雇の意思表示がなされた同月二六日当時にはすでにその実体を失つていたと主張するので考えるのに、同日までに右合同労組の構成員のうち申請人を除く第一組合所属組合員および玉電支部所属組合員が全員集団脱退したことは当時者間に争がないが、その他の事業場の支部も全て消滅してその所属組合員は悉く合同労組を脱退したとの被申請人の主張は証人水井幸、同小田輝昭の各証言をもつてしてもこれをうかがうに充分ではなく、他にこれを疎明するに足りる資料はない。

かえつて、証人赤松文雄、同金川巌の各証言および申請人本人尋問の結果によれば、合同労組においては同年九月頃かなり大量の脱退者が出たが、それでも申請人の他に光森鉄工所に二名、精電社に二名、大西鉄工所に二名とそれぞれ合同労組に留つて小人数ながら玉電争議の支援を中心として精電社における賃上げ闘争の支援、地域文化活動への参加等現在にいたるまで地道な活動をしながら規約、会計その他労働組合としての実体を保持しつつ存続していることが一応認められる。(光森鉄工所には労働組合はない旨の記載のある疎乙第六号証は採るに足らない。)

(五)  そうすると、被申請会社と第二組合との間にシヨツプ協定が締結された当時すでに合同労組という別個の労働組合に属しており、以来本件解雇の意思表示がなされた当時をつうじて現在まで同組合の組合員である申請人に対して右協定の効力のおよぶ余地は全く存しないこと明白であるから、申請人が協約第三条に該当するものとして右条項にもとずいてなした被申請人の申請人に対する昭和三六年一一月二六日付内容証明郵便による本件解雇の意思表示は申請人のその余の主張につき判断するまでもなく無効というほかなく、したがつて申請人は依然として被申請会社の従業員たる地位を保有しているものというべきである。

八、申請人の収入

申請人が被申請会社から解雇された当時一日金五五〇円相当の賃金を得て毎月少くとも二五日間労働し、かつ毎月きまつて少くとも金二、七五〇円相当の残業をして一ケ月少くとも金一万六、五〇〇円の収入があり、この賃金が毎月二〇日に支給されていたことは当事者間に争がなく、しかして申請人が少くとも昭和三七年一月分から賃金の支払をうけていないことは弁論の全趣旨から容易にうかがいうるところである。

九、保全の必要性

申請人は賃金を唯一の生活の資とする労働者であることにつき当事者間に争がないこと前説示のとおりであるから、他に特段の事情がうかがえない限り、申請人の被申請人に対する解雇無効確認の本案判決が確定するまで申請人が解雇されたままの状態を放置するときは申請人は経済生活上非常な困難を来たして著しい損害をこうむるおそれがあるというべく、この損害をさけるためには被申請人の申請人に対する解雇の意思表示の効力を仮りに停止したうえ被申請人をして申請人に対し賃金相当額の金員を従前と同一の条件で支払わせしめる必要があるものと一応認められる。(申請人本人尋問の結果によれば、申請人は昭和三七年一月から申請外大倉鉄工所で臨時就労していることがうかがえるけれども、右就労によつて本件仮処分の必要性を阻却する程度の賃金をえていることは疎明されない。)

一〇、結論

してみれば、被申請人の申請人に対する解雇は無効であるとしてこれが確認を求める訴訟を本案とし、被申請人が昭和三六年一一月二六日申請人に対してなした解雇の意思表示の効力を本案判決確定にいたるまで停止し、かつ被申請人に対し昭和三七年二月二〇日から毎月二〇日限り賃金相当額の金一万六、五〇〇円の支払を求める申請人の本件仮処分申請は理由があるから認容すべきところ、これと結論を同じくする原決定は相当として認可すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柚木淳 井関浩 金野俊雄)

〔参考資料〕

仮処分申請事件

(岡山地方昭和三七年(ヨ)第一四号 昭和三七年二月六日 決定)

申請人 松永貞芳

被申請人 有限会社友浦鉄工所

主文

被申請人が昭和三六年一一月二六日申請人に対してなした予告解雇の意思表示の効力を停止する。

被申請人は申請人に対し昭和三七年二月より毎月二〇日に金一万六、五〇〇円を支払え。

(無保証)

理由

本件申請の趣旨および理由の要旨は別紙記載のとおりである。

申請人のなした疎明および受命裁判官のなした申請人審尋の結果によると、本件申請は理由があると認められるので、これを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 池田章 永岡正毅 小栗孝夫)

(別紙)

申請の趣旨

被申請人が昭和三六年一一月二六日になした申請人に対する予告解雇の意思表示は本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

被申請人は申請人に対し昭和三七年二月二〇日より毎月二〇日限り金一六、五〇〇円の金員を仮に支払え。

との裁判を求める。

申請の理由

一、被申請人は三井造船株式会社玉野造船所の、いわゆる下請会社であつて、従業員を一二名使用し、鉄工業等を業とする会社である。

申請人は昭和三一年二月頃から、被申請人に旋盤工として雇われ、現に日給五五〇円、毎月二五日締切り、翌月二〇日支払の約で労働し、右賃金によつて生計を営む労働者である。

二、被申請人はいわゆる零細企業の常として、その労働条件が低劣であるため、労働者の間において、かねて労働組合を結成して、その経済的地位の向上を期する気運が強かつたところ、昭和三六年九月九日、申請人が先導となり当時の従業員一二名中職長である申請外小田輝昭の一名を除く、一一名で労働組合を結成し、玉野地区一般合同労組友浦鉄工所支部(以下第一組合と称する)と称した。然して申請人が執行委員長に就任し、直ちに労働条件の改善について、被申請人と交渉を開始した。

三、ところが組合結成に驚愕した被申請人は、翌一〇日夜に代表者の妻申請外友浦長女、同息子申請外友浦勲に命じて、自家用車、平和タクシーの自動車を利用し、第一組合長である申請外水井幸外数名の自宅を廻遊し、右組合からの脱退を勧誘したのみならず、一方、第一組合に加入しなかつた職長の申請外小田は、三井造船労働組合の執行委員長申請外浜口等と相謀り、第一組合員の自宅を訪問して、それぞれ第一組合からの脱退届を徴し、同月一二日には、組合員一一名中八名分の脱退届を申請人の手許え提出するの挙に出さしめた。

然して同日、つまり第一組合結成後の三日目に、右申請外小田が副委員長となり、申請外水井を委員長とする、従業員九名をもつて、友浦鉄工所労働組合(以下第二組合と称す)を結成した。

然してその後、第一組合に残留していた、申請人を除く他の二名も右第二組合え加入し、結局第一組合員としては僅か申請人一名のみとなり、然も申請人に対しては、終始第二組合えの加入の勧誘は何一つなかつた。

四、然も第二組合は、その後被申請人と労働協約を締結し、その第三条に要旨として、

被申請人は左の各号に該当する従業員を原則として解雇する。但し被申請人が解雇することが不適当と認めたときは第二組合と協議する。

一、第二組合を脱退又は第二組合から除名された者

二、省略

なる、いわゆるシヨツプ協定を締結した。

五、そうして被申請人は申請人に対し、同年一一月二六日付内容証明郵便をもつて、右シヨツプ条項を理由とし、同年一二月二七日限り解雇する旨の予告解雇の意思表示をした。

申請人は右郵便を一二月二日頃玉野郵便局で受取つた。よつて申請人は第二組合へ加入方を申入れたが、組合側は、申請人を被申請人において嫌つていることを理由に加入を認めず、又被申請人に対して解雇の撤回を求めたところ、従来一度も何等の問責追窮すらなかつた、申請人が共産党員であるからとのことで雇傭できない旨言明し、先づ第二組合に加入する様勧誘してこれを受付けてくれない。

六、本件解雇は、形式上、従業員の多数を占める第二組合との間の、シヨツプ条項を理由としているが、左の理由によつて無効である。

1 第二組合の結成に、被申請人が関与介入していることは前記の通りであり、本件解雇は第一組合員に対する不当労働行為であること。

2 シヨツプ条項の意図するところが、在職中の然も第一組合員である、申請人の解雇を予想して締結したことも明白であり、本来のシヨツプ条項の目的を逸脱していること。

3 申請人の政治的信条を曲解し、これを理由としてなされていること。

七、申請人は被申請人を相手取り、目下解雇無効の本案提起を準備中であるが、本件係属中、賃金を唯一の生計の資とする申請人は、この間の収入を絶たれ、家族を含めて路頭に迷うことが予測されるところから本件申請に及んだものである。

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